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第135話 秘宝の洞窟

last update Last Updated: 2025-06-21 19:03:15

 秘宝の洞窟の前には帝国軍の兵士たちが整列していた。

 かなりの人数だ。百人程度はいるだろう。

 彼らは武器を構えていつでも戦える体勢でいる。

 兵士たちの様子を森の茂みから見ていた俺は、軽く枝を揺らして合図した。

 周辺に散ったヴァリスとバルト、盗賊ギルド員たちからも合図が返ってくる。

「――投擲ッ!」

 レナ特製の混乱のポーションを各人が投げた。

 パリン!

 がしゃん!

 瓶の割れる音がして兵士たちがたちまち混乱に陥る。

 ほとんど全員が同士討ちを始めた。

 混乱した兵士たちの相手は盗賊ギルドのメンバーに任せる。

「何事だ!」

 洞窟の中から指揮官らしき人物が出てきた。

 その頃には俺たちは距離を詰めている。

 ヴァリスが、ヨミの剣が指揮官を斬り殺した。ヨミの宝玉の真紅が濃くなる。

『ハッ、帝国のゲス野郎だが魂は旨いじゃねえか! 安心しろ、オレがきれいに喰らいつくしてやるぜ!』

 洞窟の中にいた兵士を次々と斬り倒して血祭りにあげている。

 雑魚に用はない。

 ニアとルードを見つけなければ!

 俺は帝国兵士たちの死体を飛び越して奥に向かった。

 土の洞窟が途中から石造りになる。

 背後で兵士たちの悲鳴が止んで、ヴァリスが追いついてきた。

 通路の先、封印の扉の前に人影がいくつか見える。

 帝国の兵士が何人か。

 高官らしい立派な身なりの人物。あれがメイデスだろう。

 それに……ニアとルード!

 俺は問答無用で麻痺のポーションを投げつけた。

 ニアとルードを巻き込んでしまうが、麻痺なら別に問題はない。一時的に動けなくなるだけだ。

 だが。

 ポーションは彼らに届くかなり手前で叩き落された。

 ニアから発する光が矢となって瓶を射抜いたのだ。

 あれは魔力の、エーテルライトの光。

「ニア!」

 俺の叫びに彼女は答えない。

 虚ろな瞳
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